以前、「セミナーでダントツにキャッチーなデータ」で、軽度認知症(MCI)について触れました。
軽度認知症は、年齢以上の認知機能の低下が見られるけれども、日常生活に支障は生じていない状態をいいます。これが日常生活に支障が生じる状態になると、認知症と判断されます。つまり、軽度認知症は、認知症と健常な状態の中間のような状態であり、認知症の入り口に立った状態といえます。
そして、平均年齢を迎えることのできた男性の2割、女性の5割弱は、認知症になるか、あるいは認知症の入り口に立つことになります。
もっとも、軽度認知症になったからといって、認知症になることが約束されてしまったわけではありません。正常に戻る方もいれば、進行を遅らせることに成功する方もいらっしゃいます。ここで、どのような対応をするかで、その後の生活が大きく変わる可能性があります。
そうすると、老化に伴う通常の機能低下と軽度認知症による機能低下の違いの、判断基準が気になるところです。
しかし、これは医師が検査のもとに判断するものであり、ご本人やご家族が日常生活のなかで判断するのは無理ではないか、と思います。できることといえば、平均年齢に達したら、お祝い(?)に、脳検査をするなどでしょうか。自分の経験からすると、実際に検査を行うことで、じつは過去に、自分でも気づかない脳梗塞をおこしていたこと(陳旧性(ちんきゅうせい)脳梗塞といいます。)が見つかるかたが、必ずいらっしゃると思います。
余談ですが、高齢のかたの、おそらく脳の血管になにか詰まった瞬間に立ちあったことがあります。それまでまったく普通に話をされていたのに、急に直前の話の記憶がとび、会話が成立しなくなってしまいました。これは、一過性脳虚血発作(いっかせいのうきょけつほっさ。長いので、TIAと呼ばれます。)とよばれています。直ぐにもとに戻られましたが、ご自分には様子がおかしくなった記憶がまったくなく、ご指摘しても半信半疑でした。他のケースにも遭遇したことがありますが、共通しているのは、ご本人にその記憶がないということでした。なお、TIAは、脳梗塞の前駆症状ともいわれていますので、気づいた方は、ぜひ強く受診をお勧めしてください。
このように考えると、軽度認知症だと気づけた方は、逆にじつは幸運な方なのかもしれません。早速、医師と相談したりしながら、認知症予防にはげまれるのがいいと思います。また、それと同時に、遺言や任意後見の検討など、これからも安心して社会生活を営むための、準備を始めることをお勧めします。
不幸にして認知症と診断された場合でも、遺言などがまったくできないわけではありません。しかし、社会的な正当性はどうあれ、事実上その方の発言に、「認知症」のラベリングがされてしまうことがあります。たとえ、認知症の影響がないときの意見であっても、「その時点で、もうあの人は認知症だったから」と否定されてしまう可能性があり、後の紛争の種となることがあります。後見を受けたい場合などでは、認知症の診断があることは重要ですが、事実上の不利益がないわけではありません。
ですから、「ひょっとして、認知症かも」と思った時点で、自分の意思で判断したいことや、他のかたに伝えたい気持ち、のこしたい物などがあれば、きちんと文書でのこす準備を始めることがおすすめです。転ばぬ先の杖、なのです。